漫画でわかる不妊治療 はじめの一歩はともに二人で

漫画でわかる不妊治療 はじめの一歩はともに二人で

子どもを待ち望む環境になったとき、カップルはどう行動すればよいのでしょうか。子どもをなかなか授からないことに悩む妻・マナミと、あまり積極的に取り組もうとしない夫・タクヤ。二人が主人公の漫画「マナミとタクヤのなるほど!不妊症のこと」(作:花咲ぺろり、監修:国立成育医療研究センター、NPO法人Fine)をもとに、二人が不妊治療に理解を深め、その先の人生をイメージしていく過程をたどりました。


漫画はこちらからご覧になれます


第1話「知らなかった!妊娠・出産・不妊症のこと」
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/manga/1/

第2話「そうだったの?妊娠の仕組み」
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/manga/2/

第3話「不妊治療って大変だ」
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/manga/3/

第4話「不妊治療経験者と話そう」
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/manga/4/

第5話「不妊症にやさしい社会って?」
https://funin-fuiku.cfa.go.jp/manga/5/

年齢とともに、産める可能性は低くなる

マナミは34歳。1年前から妊娠したいと取り組んでいます。意識しているのは、基礎体温を測り、排卵のタイミングで性交渉する「タイミング法」です。夫のタクヤにはそれほど危機感はなく、妻が排卵日を告げても仕事が多忙であることを理由に断るなど、前向きに協力する姿勢は見られません。マナミはベビーカーを押す女性を見たり、周りの人の出産の話題を聞き及んだりして、モヤモヤを募らせます。「願っているだけでは子どもを授かることができない」という現実に直面しても、夫婦間で温度差があると感じています。


公園のベンチで子宝祈願のお守りを手に、ふとため息をつくマナミ。そこに「不妊症みんなの学びの場」講師を名乗る「タカ先生」が声をかけました。


「それってもしや不妊症かも」


不妊症は、赤ちゃんを望んで性生活を送っているのに妊娠しない状態が1年以上続くことを指します。マナミは学生時代、健康と体力には自信のあった自分が実は、不妊症にあたることに気付きます。


「3組に1人が不妊に悩んだ経験があり、4.4組(※)に1組が実際に検査や治療を経験しているという状況です」(タカ先生)


※出典:「2021年社会保障・人口問題基本調査」の「第16回出生動向基本調査」


日本では不妊に悩むカップルが少なくない現状を知り、マナミは初めて知った「不妊」という現実とじっくり向き合うことになります。


タカ先生は問いかけます。「ご存じでしたか。卵子は年齢とともに減っていき、年をとっていくということを」


女性は胎児の段階では約700万個の卵子を持っています。出生までに200万個となり、思春期には20~30万個に。閉経を迎えるころには、ゼロに近づいていきます。実は、卵子だけでなく精子も同じ。晩婚化によって不妊が増える理由は、男性側の精子も女性側の卵子も老化するといった事情があるからです。


妊娠率・生産率・流産率

「不妊治療による妊娠率や流産率を年齢ごとに表したグラフを見ると、30代半ばを過ぎると妊娠の確率が下がっていき、逆に流産する確率が上がっていきます」(タカ先生)


年齢を重ねるにつれ、妊娠しても出産に至らないケースが増えるという事実を前に、“30代半ば”にいるマナミは、「私、何も知らなかった……」と愕然とします。学校の授業などで、命の誕生の仕組みについては教わっていても、妊よう力(妊娠する力)と、それが加齢によって低下していくことは教えられていません。若いうちに仕事が忙しくて妊娠・出産について向き合うことを後回しにしていると、いざ「子どもが欲しい」と思っても、うまく行かなくなるケースが少なくないのです。

「治療は二人で」が基本

そもそも、妊娠するということは、どのような仕組みなのでしょうか。マナミはタカ先生の講義を聴いてみました。


「卵巣で作られ選ばれた卵子が、毎月一つだけ卵巣の壁を突き破って出てきます。卵管采(らんかんさい)がキャッチし、卵管に取り込まれることを『排卵』といいます。そしてこの卵子が精子と出会うことができれば受精卵となります。受精卵が子宮に移動し、その内側にある子宮内膜がフカフカのベッドのようになって受精卵を迎えるんです。それを『着床』と言います」(タカ先生)


しかし、卵管で卵子と精子が出会わず、迎えるべき受精卵が来なければ、このフカフカの部分が剥がれて女性の体から外に排出されます。それが女性の『月経』です。


排卵、受精、着床のプロセスのどこかで何らかの問題があってうまく作用しないと、不妊が起こります。男性に原因がある場合は、精子の数が少ない、精子の運動率が低下している、精子の通り道である精管が途中で詰まっている――などの理由が考えられます。

子宮の図

「男性由来の不妊も実は多い状況にもかかわらず、『産婦人科に行くのが恥ずかしい』『治療は女性に任せっきり』という男性も多いと思いますが、それはとんでもないこと。『不妊治療は二人で』が基本です。忘れないでくださいね」(タカ先生)


タカ先生の話を聞いた夜、マナミはタクヤに協力を求めます。しかしタクヤは「そういうプレッシャーが嫌なんだよ。いつかできるよ。いつか」と相変わらず他人事のような態度です。傷ついたマナミは「ちゃんと向き合ってほしい」と涙をこぼします。


「不妊症」と「不育症」とは?

マナミの切実な思いにタクヤは態度を改め、タカ先生の話を二人で聴きに行くことになりました。そして「そもそも不妊症とは?」から学び始めます。


不妊症が疑われるカップルは、まず検査を受けます。男性は精液検査、女性は採血検査や超音波検査などです。不妊治療の最初のステップとされるのが、基礎体温を測って排卵日を推測し、そのタイミングで性交渉する「タイミング法」。マナミとタクヤがすでに試みていた方法です。


それでも授からない場合は次のステップである人工授精に。採取した精子を排卵日前後に子宮の奥に注入する方法です。まだ妊娠に結びつかないというとき、続いて行われるのは体外受精です。体内から取り出した卵子と精子を病院で受精させ、しばらく培養したあと子宮に戻すというやり方です。それでも妊娠が難しい場合に、顕微授精。顕微鏡を使って取り出した卵子に直接、精子を注入して受精させて子宮に戻す方法で、胚培養士という専門スタッフが担当します。


タカ先生の話に続いて「不育症」治療の専門医であるマリ先生が、不育症について説明しました。


「無事、妊娠はするのですが流産や死産を繰り返してしまう状態をいいます。7割近くが医学的にも原因がはっきりしないんです」(マリ先生)


無事、妊娠はするのですが流産や死産を繰り返してしまう状態をいいます。7割近くが医学的にも原因がはっきりしないんです

妊娠しておなかの中で赤ちゃんが育っているにもかかわらず、ある日突然、命を終えてしまうということ。特に赤ちゃんを失ったカップルの気持ちが立ち直るまでには何年もかかることがあります。不育症は、不妊症か否か、また不妊治療を行っているか否かにかかわりなく起こるもの。「皆さんが思っている以上に、赤ちゃんを授かるということは奇跡的なことなんです」とマリ先生は話します。


不妊症・不育症治療には身体的な負担のほか、時間やお金、そして精神面でも負担がかかります。不妊治療中の患者さんの中には、さまざまな負担や重圧から「先の見えないトンネルの中にいる」といった追い込まれるような気持ちになる人も多いと言われています。


「でも、そんなときに救いになるのはパートナーとの絆です。これからパートナーとどんな暮らしをしたいのか、それを実現させるためにいま、何をすべきなのか。まずは二人で未来について話すこと。それが結果的に不妊治療を乗り切っていく一番の近道なんです」(マリ先生)


産みたいのか、育てたいのかも考える

次に、「不妊治療経験者と話そう」という催しに参加したマナミとタクヤ。そこで不妊治療を経験した3組のカップルの話を聞きました。1組目は、不妊治療をずっと妻任せにしていたものの、実は夫の側が男性不妊だったというケース。見つかった精子で顕微授精を試みて赤ちゃんを授かることができましたが、「たとえ男性側に原因があったとしても、女性への負担は変わらない」と話します。治療の過程では圧倒的に大きい女性側の負担。男性に向けて「できるだけパートナーに寄り添って」と語りかけました。


2組目は「子どもを産まず、夫婦二人で生きる」という人生を選択しました。不妊治療中は、子どものいない人生について考えることはなかなかできないものです。しかし、この夫妻は不妊治療に区切りをつけ、趣味などを充実させて二人で楽しく生きる、という道を選んだのでした。


また、「産まなくても親になる」という道もあります。3組目は里親になった夫婦。血のつながらない子どもを育てる里親制度や特別養子縁組制度について語りました。いずれも家庭を必要とする子どもたちを育てる、子どものための制度です。里親では親権は生みの親が持ったままですが、特別養子縁組の養親になると法律上も子どもと親子関係になり、親権を持つことになります。

ちなみに実の親に代わって子どもを育てる制度には二つありましてそれが里親制度と特別養子縁組。里親の方は生みの親に親権があるのに対して特別養子縁組の方は戸籍上も自分たちの子として育てるという違いがあります。

「子どもを産みたいのか、育てたいのか」を話し合った結果、「育てたい」として里親になることを選んだ夫妻は、「私たちのような選択もあることをぜひ知っておいていただきたい」と締めくくりました。不妊治療中のときからさまざまな選択肢を知り、二人で考えておくことが大切なのです。

学び、話し合うことで一歩を踏み出す

不妊治療をするうえで、仕事との両立をどのように考えるのかは重要なポイントです。不妊治療中は痛みや投薬などによる影響も起こりうるのに加え、通院や病院での待ち時間などに時間も要するので、仕事を続けるうえで調整が必要になることも。治療自体にお金もかかるため、経済面を考えると仕事をやめるという決断もまた難しい、というジレンマに陥ることになります。雇用主である企業側では、どんな取り組みをしているのでしょうか。タカ先生の紹介で、マナミとタクヤはとある企業の勉強会に参加しました。


そこでは、不妊治療経験者を支援するNPO法人スタッフのヤスコさんが講師役を務めます。「不妊治療をしている約5500人に『仕事との両立はできていますか?』と聞いたところ、ほとんどの方は両立が難しいと答えています。その理由として、通院と仕事のスケジュールの調整が課題になっていることがわかり、全体の約20%が退職されていました」


ヤスコさんが体外受精にチャレンジしていたときの月間スケジュールを示すと、仕事を早退したり合間を見て通院したり、休暇を取ったり……度々の通院が必要なことがわかります。しかも女性の生理周期などをみながら治療をしていくため、事前に通院スケジュールを立てるということが難しく、周囲にも伝えにくいという現実があるのです。

私が体外受精をしていた時のある月のスケジュールです。ほんとうに頻繁にクリニックに行ってる感じですね。仕事を早退して卵子を育てるための注射を打ちに行ったり採卵したり。休暇をとって採卵したり受精卵を移植したりホルモン補充のために仕事の合間を見て通院したり。

ヤスコさんが、管理職に心がけてほしいことを伝えます。「まず、仕事をセーブしたいのか、ケアしてほしいのか、本人の希望を聞くこと。それと“踏み込み過ぎないこと”も大事。フレックスタイム制など、働き方に配慮することが必要です」。まずは不妊治療に対応できる休暇制度や、フレックスタイム制など両立を支援できる制度を整えることが求められます。また、制度を整えること以上に大切なのは、社内の意識や風土の醸成です。「経営トップや管理職を含めた社員一人ひとりが、不妊治療を応援する意識を持つこと。『不妊治療について話しやすい環境』を作っていくことが大事だと思います」


ここで、マナミが手を挙げます。実は勉強会を主催した企業はマナミの勤務先。不妊治療をしているのは少数派と思い込み、言い出しづらかったと打ち明けました。「でも、不妊症や不育症についてもっとみんなに知ってもらわなくちゃ、と考えが変わりました。会社の理解や取り組みが進むことで、離職の防止や社員の安心感、モチベーションの向上、新たな人材確保にもつながると思うんです」。マナミのスピーチに続いて、ほかのカップルも自分の経験や思いを語り始めたのでした。


勉強会を終え、不妊治療について学ぶ機会へと導いてくれたタカ先生に感謝するマナミとタクヤ。タカ先生はこうメッセージを送りました。


「子どもを持つことだけが『二人にとっての幸せ』ではありません。どうかお二人でもっとたくさんお話して、お二人ならではの幸せのカタチを見つけて下さい」


マナミとタクヤは、不妊治療の結果がどうであっても「二人で向き合っていくことが大切」と気付き、絆を深めました。そうして手を取り合い、心新たに自分たちらしい人生への一歩を歩み出したのです。

\ 記事をシェアする /