齊藤隆和先生

不妊治療って何をするの? 検査やステップを専門医が解説

医療の力を借りて妊娠を目指す不妊治療は、子どもを望むカップルにとって当たり前の選択肢になってきました。2022年4月からは不妊治療が保険適用となりました。いますぐ子どもを授かりたい人も、子どもを産むかどうかをまだ決めていない人も、妊娠や不妊治療に関する正しい知識を早いうちから持つことが大切です。不妊治療の専門家である国立成育医療研究センターの齊藤隆和先生に、検査や治療のステップなどについて聞きました。


まずは原因究明

初診では最初に問診を行い、受診のいきさつや妊娠に対する希望、健康状態、月経周期や基礎体温、既往歴などを聞きます。その後、妊娠できない原因を探るための検査へと進みます。


主要な検査は、ホルモンの濃度などを測る血液検査です。「女性は月経周期に応じた検査を一通り受けることが大切」と齊藤先生。月経初期、排卵期、黄体期のそれぞれの段階で、エストロゲン、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモンなど、各種ホルモンが適切な時期に分泌されているかを測ります。


また、抗ミュラー管ホルモン(AMH)というホルモンを検査することもあります。このホルモンは、卵巣に残っている卵子の数を反映すると考えられ、卵巣の予備能の目安とされています。AMHは卵巣の予備能を見ているのであって、妊娠率とは異なることには注意が必要です。不妊治療を行うに当たって、治療の進め方を考える参考にしています。


超音波検査も重要で、卵胞の数や発育具合などが分かるほか、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣嚢腫がないかなどを確認します。卵管造影検査では卵管が詰まっていないかを調べます。また、場合によっては子宮鏡検査で子宮の内腔の検査も行います。


また、男性が関わる検査では、精液検査のほか、性交後に精子と女性の子宮の入り口の粘液の相性を見るフーナーテストをすることができます。


齊藤先生によると、これら一連の検査には通常4、5回の通院が必要です。その後の治療方針に関わってくるので、しっかり調べた方が良いとのこと。

齊藤隆和先生

ストレスや体重の増減も不妊の原因に

不妊の原因にはさまざまな要素が考えられます。ストレスや体重増減などを含む「内分泌・排卵因子」、卵管閉塞やクラミジア感染などの「卵管因子」、精子をつくる機能に障害があるなどの「男性因子」の3つが多く、原因を特定できない「原因不明不妊症(機能性不妊症)」も存在します。


齊藤先生は「不妊の原因は1つだけでなく複数の可能性もありますし、女性と男性の両方に起因することもあります。どこまで検査や治療を進めるかはケースバイケース。検査によって見つかった原因によっては、原因に対する治療を行うこともあります。しかし、たとえばごく小さな子宮筋腫が見つかったとしても、妊娠や母体の健康に影響を与えるものでなければ、そのまま次のステップに進む場合もあります」と説明します。

一般的な不妊治療の流れ

ステップ1 タイミング法:受診でより正確に

自然妊娠を目指す場合は、排卵日を推測して排卵前の適切な時期に性交渉を持つ「タイミング法」に取り組みます。基礎体温を測るだけでも可能なため、病院を訪れる前から既に自分たちで試しているカップルも多い方法です。


病院では、基礎体温の周期に加えて、超音波を使って卵胞の大きさを確認することができます。そのため、卵胞の成熟の度合いから、より正確な排卵日を測ってタイミングを取ることが可能になります。医師からアドバイスを受けながら「タイミングが本当に合っているのか」「ちゃんと排卵されているのか」をチェックしながら治療を進めていきます。


「不妊症ではなく通常の妊よう性(妊娠するために必要な能力)のある女性は、タイミングを取って妊娠する確率が1回につき約20%です。それまでタイミング法を試みたことのない若い方であれば、最低でも3周期、できれば5、6周期はタイミング法を続けてみた方がいいと思います。ただ、40代の方であれば、すぐに人工授精をお勧めするケースが多いですね」と齊藤先生は語ります。

ステップ2 人工授精:子宮内に精子を注入

「人工授精」は、名前こそ“人工”と呼んでいますが、女性の身体への負担が少なく、自然な妊娠に近いスタイル。「男性の精子を元気のいいところだけ濃縮して、排卵期の子宮腔内にチューブで入れてあげる方法です」と齊藤先生。


精子が卵管にたどり着きやすくなるため、男性が勃起不全で性交できない場合や、精液中の精子が少ない場合などに効果的です。女性が頸管粘液分泌不全の場合も有効な治療法となります。


「年齢にもよりますが、一般的には3~6回ぐらい治療を行うことが多いと思います。ただ、回数を重ねても妊娠に至らなかった場合は、医師から体外受精を勧められる場合が多くなります」

ステップ3 体外受精:体の外で受精して子宮へ戻す

卵子を取り出して体外で受精させ、受精卵を子宮に戻すのが「体外受精」です。齊藤先生が「元々は、卵管の通過性がなく、卵子と精子が出会えないような人たちのために開発された治療法」と言うように、両側の卵管が閉塞している場合(卵管因子)や精子が極端に少ない場合(男性因子)が適応になります。また、原因不明の場合にも、人工授精で妊娠しない場合には体外受精を行うことがあります。


具体的には、排卵誘発剤で卵巣を刺激し卵胞を複数育ててから採卵する方法(調節卵巣刺激法)と、自然周期で1個の卵胞から採卵する方法があります。しかし、卵胞が一つであると卵子が採取できない場合があることや、採卵回数が多くなると女性の負担になることから、調節卵巣刺激法を用いることが多いようです。


採取した卵子と、男性の精液から採取した精子を一緒に培養して自然に受精させ、胚(細胞分裂した受精卵)を育てます。胚移植には、胚を凍結せずに子宮に移植する方法(新鮮胚移植)と、一度凍結した胚を融解して子宮に移植する方法(融解胚移植)があります。子宮に移植する胚は原則1個です。新鮮胚移植をした場合でも、残った胚(余剰胚)は凍結保存します。

ステップ4 顕微授精:人の手で受精させる方法

「顕微授精」の進め方は体外受精とほぼ同じで、受精の方法だけが異なります。顕微鏡を見ながら精子を卵子に注入し、受精の手助けをする方法です。


齊藤先生によると、特に原因が特定できない受精障害や男性不妊などの場合、顕微授精を検討する必要が出てくるといいます。

生殖補助医療(ART)の可能性

生殖補助医療(ART)とは、一般的に体外受精と顕微授精、それに伴う凍結保存胚を使った移植のことを指します。1978年に世界で初めて体外受精によるヒトの妊娠・分娩に成功し、83年には日本でも実施。90年代には顕微授精が行われるようになりました。


不妊症の女性が妊娠する確率の目安は、人工授精が40歳未満だと5~10%、40歳以上が3~5%とされています。ARTの場合、胚移植あたりの妊娠率は、30歳未満が46%、30~34歳が43%、35~39歳が36%、40~44歳が21%、45歳以上が7%と言われています(※)。しかしながら、卵子を採取出来ない場合や妊娠しても流産となる場合があるので、出産に至る割合はこの値よりも低くなります。


※『不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針(改訂第2版)』(メジカルビュー社)の治療方法別の妊娠率の目安より

治療のステップアップのタイミングは?

年齢の高い人、治療回数の多い人には、早めにステップアップして高度な不妊治療であるARTへの移行を勧めることもあるそうです。ステップアップする判断について、齊藤先生は「同じ治療を重ねれば成功率が比例して上がるというわけではないので、治療方針をよく医師と相談してご夫婦で考えていただくことも大切です」と説明します。


「焦るのもよくないですが、年齢を重ねるごとに妊娠率は低下していきます。医学的な状況だけでなく、ご本人の希望やご家庭の状況なども含めて治療方針を決めていく必要があります。何でも話し合えるような関係を医師と築いておくことが大切でしょう」


高度な治療は負担になることも

ARTによって妊娠できる可能性は広がりますが、治療に伴うさまざまな負担も増えます。「たとえ不妊の原因が男性にあったとしても、女性が受ける肉体的・精神的負担は大きく、また通院回数が増えることで職場などでの社会的な軋轢(あつれき)が生じることもあります。」と齊藤先生は語ります。


1回の体外受精での通院回数は、採卵までが3、4回。それに胚移植の日が加わります。1回で受精できなければ、再び採卵や胚移植のための通院を繰り返すことになります。採卵時などの痛みや、薬を飲むのに伴う影響は昔に比べれば改善されましたが、それでも女性には大きな負担となります。
また、体外受精などの高度な治療になると経済的な負担も大きくなります。

齊藤隆和先生

悩みを一人で抱え込まないで

妊娠・出産に向けた準備は、早いに越したことはありません。まだしばらく子どものいない生活を考えているカップルでも、まずは、お二人の間で温度差が無いように、しっかり話し合ってください」と、齊藤先生はアドバイスします。


子どもが欲しいと思う人を職場や社会がサポートしていく環境づくりが今後も求められますが、不妊に関する悩みを周りに打ち明けられず、一人で悩んでいる場合もあります。齊藤先生は「全国にある不妊専門相談センター(性と健康の相談センター事業の一部)といった窓口を利用するのも一つの手段です。ストレスや悩みを一人で抱えないで、一つ一つの課題を解決していってほしいと思います」と締めくくりました。


※当記事には個人的な見解も含まれます。

PROFILE

齊藤隆和(さいとう・たかかず)先生

1959年生まれ、千葉県出身。国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 不妊診療科診療部長。専門分野は産科婦人科学、生殖医学、生殖補助医療。医学博士、産婦人科専門医および生殖医療専門医。当サイトの動画とマンガ「マナミとタクヤのなるほど!不妊症のこと」の監修も担っている。


\ 記事をシェアする /