CASE 02

男性不妊に2人で向かい合った
Bさんのケース

妊活を1年以上続けても授からず、検査したところ、男性不妊が判明。夫が精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)の手術を受けました。ときに夫婦が本音でぶつかり合いながら、感謝の心は忘れずにさまざまな困難を乗り越え、第1子を授かったBさんにお話を伺いました。

【妊活ヒストリー】

27歳
4歳年上の夫と結婚
9カ月後から自己流でタイミングをとり始める
自宅近くの婦人科で、妻のみ不妊検査を受けるも異常なし
29歳
不妊専門クリニックにて夫婦で検査を受け、夫側にトラブルあり
大学病院で精索静脈瘤と診断され、夫が手術を受ける
30歳
顕微授精1回目の移植で、妊娠成立
31歳
第1子誕生

自己流の妊活を1年以上続けてみたけれど

2021年3月に入籍し、12月の新婚旅行が終わってから妊活を始めることにしました。それからしばらく自己流で妊活したのですが、妊娠しませんでした。夫も協力的で、タイミングをとる排卵日に遅くまで飲んで帰るようなこともなかったです。このころは2人とものんびりしていました。

新婚旅行で沖縄へ。由布島へは牛車で行きました。

1年ちょっとたっても授からないので、一度きちんと専門家に診てもらおうということになりました。クリニック選びについては医療機関に勤めている義父が、「まだ若いので急ぐことはないが、不妊治療をするなら○△クリニックがいいよ」と、すすめてくれました。そのクリニックは夫と私の双方の職場から通いやすい場所にあるので受診したところ、夫のほうにトラブルが見つかりました。

検査してみると、原因は“男性不妊”

実はその少し前、夫は簡易的な精液検査を郵送で受けたのですが、結果が思わしくなかったようで、「仕事が忙しかったからかなぁ…」と言っていました。私も深く追求すると気の毒なので、「あ、そうなんだ」と、そのときは軽く受け流しました。

○△クリニックで精液検査をすることになったとき、夫は「えー、俺も調べなきゃいけないの?」とふざけていましたが、内心は心配だったんだと思います。快く検査を受けてくれました。

結果はWHO(世界保健機関)のガイドラインに比べて、運動率が1桁ほど低く、濃度も基準を下回っていたのです。不妊の原因は男性不妊でした。

医師からは大学病院の泌尿器科を受診するよう、紹介状を渡されました。看護師さんから励まされたものの、不妊の原因が自分にあると知った夫の落ち込みようは見ていられないほど。私もなんて言葉をかけていいのかわかりませんでした。

男性不妊といっても、はっきりとした原因は特定できず、どう治療していくかも見えていない状態。2人でたくさん話し合いましたが、この時期はお互いに不安で、ストレスも大きかったです。

夫が精索静脈瘤の手術を決意!

2023年6月に大学病院で精密検査をしたところ、やはり精索静脈瘤でした。

これは、精巣(睾丸)につながる血管の静脈が拡張して、こぶのように腫れる病気です。血液が逆流することで静脈に血流が滞り、精巣の温度が上がって、精子の生成に悪影響を及ぼし、不妊の原因になります。決して珍しい病気ではなく、推定できる男性不妊の原因ではいちばん多いそうです。

夫の場合も、左側の静脈が詰まっていて熱をもち、右側の通りも悪く、医師からは「漢方などによる保存療法もあるけれど、妊娠を希望するなら手術をしたほうがいい」とすすめられました。それまでひたすら精索静脈瘤の治療や手術について調べまくっていた夫は、その場で「お願いします」と答えました。

本人としても局部にメスを入れるのはとてもこわかったと思いますが、私がずっとこどもを欲しがっていることを知っていたので、私のために頑張ろうと決断してくれて、とても感謝しています。

(左) 妊活中に息抜きで行った四万温泉。
近くの神社で子授け守もいただきました。
(右) 箱根や小田原にも開運祈願に行きました。
そのとき食べた海鮮丼がおいしかった!

夫はやさしいだけに、繊細なところがあります。私にできるのは、少しでも彼の不安をとり除くこと。失った自信をとり戻してほしいという思いで、今まで彼が私のためにしてくれてうれしかったことについて、たくさんの感謝の気持ちを伝えるようにしました。

手術は成功したものの、それほど数値は改善せず

手術は1泊2日で行いました。手術自体は成功し、3カ月後に経過観察へ。手術までしたのだから、WHOのガイドラインくらいの数値にはなっているだろうと期待していましたが、思ったほどは改善していませんでした。このときは夫も私もがっかりしてしまいました。

その後、○△クリニックを再受診して、やはり数値は正常値に届きませんでしたが、妊活は進めていきましょうとのことで、再開することになりました。そのときに「タイミング法か顕微授精(※1)か、どちらにするかはご夫婦で話し合って決めてください」と言われました。それまで長く自己流でタイミングをとってきたので、少しでも早く前に進みたいという気持ちで、顕微授精にステップアップすることを決めました。

(※1)体外受精の一種。顕微鏡で見ながら卵子に精子を直接注入して受精させる不妊治療。

1回目の顕微授精で、待望の妊娠判定!

顕微授精をするためには採卵が必要ですが、採卵には、卵巣を刺激して卵子のもととなる卵胞を育てる薬をなるべく使わずに、自然に近い低刺激法で卵胞を育てました。麻酔なしで採卵するということで、どれほど痛いのだろう?と不安でした。実際は、出産時の陣痛ほどではないけれど、重い生理痛のような感じで痛かったです。

しかも数名の医師や看護師に囲まれて、手足を支えられ、「もっと下のほうに移動して」「力を抜いて」などと言われたので、余計に緊張しました。モニターで採卵する様子を見せてくれるのですが、画面を見る余裕はありませんでした。

卵子は2個採れて、顕微授精を行い、そのうちの1個は途中で分裂が止まってしまったのですが、もう1個が胚盤胞(※2)まで成長してくれたのでそれを凍結し、翌月に移植しました。そして1回目の移植で妊娠が判明したのです。

(※2)受精卵が細胞分裂を繰り返し、受精後5〜6日目の着床前の段階。

はじめての移植で妊娠、出産まで進み、奇跡だと思いました。

夫はすごく喜んでくれて、私もすごくうれしかったです。一方で、妊娠初期は流産の可能性も高いし、まだどうなるかわからないので、体を大事にしなきゃいけないなどと、冷静に考えていました。

一足先に妊娠がわかった友人からも、「不妊治療はうまくいかないことがたくさんあるから、結果は淡々と受け止めて、感情の起伏に振り回されないほうがいいよ」とアドバイスされていたので、慎重になろうと努めていました。

授かった決め手は、
早めのスタートと最短ルートの治療

授かった決め手は、20代の終わりから早めに治療を始めたこと。そして、不妊専門クリニックの高度な治療のおかげだと思っています。私たち夫婦の場合は、不妊原因の特定も早く、すぐに大学病院を紹介してもらって手術して、最短ルートで治療することができました。

男性不妊で大変だったのは、夫が自分の病気について検索しても、症例が発信されていなくて、知りたい情報がなかなか出てこなかったことです。周囲にも同じ状況の友人・知人はおらず、不安だったと思います。

また、夫の学生時代の仲間に男性不妊のことを話したら、あるメンバーから冗談で「種なし」と言われたそうです。そのときは別の友人が怒ってくれたようですが、夫もデリケートな問題をそんなふうに茶化されて、ストレスだったんじゃないかと思います。

不妊治療って、どうしても女性に負担がかかりがちです。でも、男性不妊が原因の場合には、男性も治療を経験して痛みも感じて、関わりが深くなるので、そういう意味では2人で乗り越えられて、よかったと思います。

つらいことも多かったけれど、
夫婦の仲を深めた不妊治療

ただ、長い治療の途中には、夫婦間の温度差を感じることもありました。

夫婦2人で、子授け祈願しながら、いろいろな土地を旅しました。

夫の手術が終わって、顕微授精が始まると、医師から「あとは奥さまに頑張っていただきましょう」というようなことを言われ、夫も自分の役目は終了したような気分になったのかもしれません。

私がいちばん大変だった採卵の日、夫も採精があったのでクリニックには来ましたが、それが終わったら、自分はさっさとキャンプに行ってしまったのです。私はずっと前から、「この月は採卵があるから、予定をあけておいてね」と頼んでいたのに、自分はキャンプの幹事だからと、私を残して行ってしまって…。私は体もきついし、不安だし、夫の行動が許せなくて、大ゲンカになりました。

夫も謝罪の電話をくれましたが、私は「あなたがこんな態度なら、不妊治療は続けられない!」と、不満が大爆発。今後は協力するということで仲直りしましたが、それまでは夫にも、「不妊治療は女性がするもの」という考えがあったように思います。

その一件があって、夫は料理や家事を手伝ったり、私の負担を減らすようにサポートしてくれたりするようになりました。私も不満をため込まず、本音で話し合うようにして、少しずつギャップを乗り越えていきました。

夫の協力度は、あの採卵の直後は70点くらいだったのですが、その後は改心して今はこどもが生まれて育児にも協力的なので、100点ということにしておきます(笑)。

不妊治療では、自分のいやな部分をさらけ出すこともあってつらかったけれど、本音でぶつかり合ったあの時期があったからこそ、お互いに理解し合えたこともあります。振り返ってみれば、長い人生のなかで、夫婦の仲を深める貴重な時間だったのかなと思っています。

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